第四回 明暗
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絶対後悔させないような時間を提供したかったんです
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ゲームを作る際
「これだけは絶対にゆるがせにできない」
という方針等ありましたら
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奈須 |
そうですね・・・やっぱりその、小説を書いているわけでは
ない。ゲームとしてやってる以上、モニターの前で
何時間もいるってことは大変なことだと思うんですよ。
これだけ娯楽があふれている今の状況において、
5〜6時間もモニターの前で拘束する。
そうさせるからには絶対に後悔させない時間を提供したい。
あくまで娯楽として考えて、やった後で簡単に忘れられない
ような時間を提供したかった・・・と、一丁前のことを
言ってみたり(笑)
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武内 |
一丁前ですねぇ
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(笑)
武内さんの方はどうでしょう?よくお使いになる言葉に
「すごく面白くて、少し泣けて、十分にHなゲームにする」
というのがありますが
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武内 |
ええ
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これを見て、実際にゲームをやって感銘を受けまして
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奈須&武内 |
(笑)
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「すごく面白くて」が最初に来るのがすごくいいなあと。
この辺、ある意味非常に同人らしいとも思ったのですが
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武内 |
単純に、奈須が文章を書けば面白いんですよ
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奈須 |
アハハハハ・・・(照れている)
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武内 |
変に暴走さえしなければちゃんと面白い方に持っていける。
それはあったな、と思うんですよね。そこに付加していく
ものとして、Hな部分、泣ける部分っていうのを。
今ある既存のゲームにしてみても結構食い足りないな、
と思う部分があったんですよ。でまあ、自分たちがそういう
食い足りないと思う部分を全部補完したいな、
っていうのがありましたね。
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月姫は自分達の理想を形にしたものであると
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武内 |
そうですね
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奈須 |
理想というよりは基本ライン。偉ぶっているわけでは
ないですが、とりあえずこのくらいまではやっておかないと、
ていう。理想という言葉を出してしまうと(月姫は)ゲーム的に
その、アレな部分が多いんで(笑)理想からは遠いという
気はします
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武内 |
なぁるほど(註1)
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30日使わないと恋愛は表現できない?
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奈須 |
月姫は結局、各ヒロインの流れになったらその大きい
流れの中で多少分岐するだけなんですが、ホントは
川の流れそのものを変えたかった。時間的に無理
だったんですが(当時は)「そういうのが欲しいんだ!」
と言っていまして。1ヒロインに1日分くらい大きく分岐する
大分岐を用意しよう、と。ところがまあ、この人(武内)は
あんまりゲームやらない人なんで。
こっちがチャート作ってる時に(やる気のない口調で)
「別にいいと思うけど」「今のままで十分だよ」
とか言うんですよ(笑)でも、もっとゲームゲーム(したものに)
したいんだい!と
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武内 |
あのですね、最初は半年間で作ろうと思ってたんですよ
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奈須 |
ご、ごめんなさい(笑)
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武内 |
それがもう、
奈須がですね、はじめはすごくてですね
「30日間使わないと恋愛は表現しきれない」とか言って
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一同 |
(爆笑)
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奈須 |
いや、違います!日常、日常です!日常
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武内 |
嘘。恋愛って聞いた、俺は。1ヶ月間無いとダメだって。
あの、月姫ってだいたい10日くらいじゃないですか、話として。
(最初作ろうとしてた時は)3倍の量があったんですよ。
1ヒロインに対して。今でも8時間かかる(註2)
じゃないですか。1ヒロインで24時間かかるっていう
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奈須 |
ちょうど1日で終わる(註3)
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武内 |
そんな話を4ヒロインとか5ヒロインで考えていて、もう。
「空の境界」の時も思ったんですけど、もともと奈須って
書く量がすごく多いんですよ。それで(奈須が)
「とにかく減らして。(武内君が)こう、押さえないと
どんどん増えていくから」って言うんで
(やさしく、なだめるような口調で)
「その辺にしとこうや」とか「減らそうや」ということは
言ったんですけど
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なんでもない日常の大切さ、
それを表現するために30日が欲しかったんです
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あのボリュームのまま30日やるつもりだったので?
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奈須 |
いや、スパンが30日の頃は1日あたり1時間で
終わればいいかな、と思ってたんですよ(註4)
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武内 |
終わってなかったよ
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奈須 |
そうですねー。どうかしてたんでしょう。あのですね、
(ヒロイン達の中で)シエルというキャラクターのコンセプトは
「主人公における日常」だったんですよ。30日というのは
あくまでシエルのためだけに用意した、と言っても過言では
ない。要するにはじめの3〜4日でシエルが出てきて、
1週間くらい先輩と学園生活をしてああ、楽しいな、と
プレイヤーに思って欲しくて。
で、その後でああいう展開が待っている。その「日常」の
ためだけに30日が欲しかったんです。逆に言えばその、
30日という長いスパンがアルクェイドの足枷だったん
ですよ(註5)結局10日にまとめなおして、
今の形に収まりましたが、一番初期コンセプトから
外れてしまったのがシエル。日常の大切さを表現しきれ
なかったというのがまあ、残念と言えば残念。ただまあ、
たしかに30日というのは・・・自分もその
「30日をやめよう」と言われましてすごい反感を
覚えたんですよ。そんなのやだ、と。それが1999年。
12月25日あたりの話。ケンケンゴウゴウになりまして。
ちょうどその頃、私はあるゲーム会社にお手伝いのような形で
勤めていたんですが、その会社が作っているゲームの
シナリオをちょっとまあ、手直ししてまして。
「んー、冒頭とか、すごく無駄だなあ」
「こんなのにつきあわされたら、たまんないなあ」
・
・
「30日つきあわされるのも、たまんないなあ」
ということに気づきまして(笑)電話して、
「ごめんなさい。作り直します。自分が悪うございました」
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一同 |
(笑)
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武内 |
恋愛物っていうのを、奈須がすごく意識してた部分が
あったんですね。自分が恋愛物をやる以上は既存の物とは
違うモノにしたい、っていうのが強かったみたいで。
自分の中では別に恋愛物を作ろうっていうつもりは
なかったんで。その辺、ちょっと相違があったみたいです。
奈須がいつも作っているものをやってくれればいいのに。
恋愛物のフォーマットで面白いものにしよう、って
こだわっちゃってて
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奈須 |
「恋愛物にはするけど、主人公は絶対カッコよくする」
というのは、逆に言うとすごく「恋愛物」っていう言葉に
とらわれていた
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それでまあ、半年で作る予定だったものが延びに延びて
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奈須 |
ソース自体は4ヶ月くらいでできてたんですけど。
慣れないゲーム作りで自分達が作ったものを組み合わせて
ゲームにするっていう、スキルがまったく無かった。
それであれよあれよと言う間に・・・
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武内 |
実際、馬鹿みたいに長いシナリオだったんで。
テストプレイとかもあんまり考えてなかったっていうのも
ありますし、サークルの中の足並みもなかなか
揃わなかったっていうのもあるんですね。
基本的に自分と奈須だけの作業でずっと進んでいく予定で、
ある一定期間になったらプログラムとサウンドに
入ってもらうと。ところが、全部用意するのに半年間も
かかっちゃいましたから、プログラムもサウンドも
すでに職を持っちゃってまして。自由に時間が使えない、
っていうことになってきて。
結局夏には間に合いませんでした。まあ、でも今はそれが
すごく良かったなと思うんですけどね。夏でプレビュー版を
出してその反応をいただいて。そこですごく気に入って
くれた方がいて、その方に協力してもらって。
テストプレイしてもらったり、あと誤字を見てもらったり
とか(註6)その他にもスキップが欲しいとか、そういう
意見を組み込むことができたというのもすごく大きかったな、と
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実際、その期間が無かったら琥珀のシナリオは
生まれていなかったわけですからね
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武内 |
あと、「月蝕」も無かったですね
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to be continued…
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