第七回 奈須
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小説である以上、マンガの倍は面白くないと意味がない
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ここからは、主に奈須さんに質問させて
いただきたいと思うのですが
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奈須 |
あ、はい
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奈須さんの目標は「伝奇と新本格(註1)の融合」であると
聞いています。伝奇方面では先ほど名前の挙がった
菊地秀行さんがいるわけですが、その他に影響を受けた
作家さんなどいましたら
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奈須 |
自分はずっと伝奇一本槍だったんですよ。
菊地さんはその、
神様というか初期衝動というか。こんな面白い小説や
ジャンルがあるんだと。武内君とずっとコンビを
組んでいるので絵というものの破壊力は知ってるわけですよ。
どうがんばっても小説はマンガには勝てない。
小説は字を読むという時間をとる厄介な過程があるのに
対して、マンガはもう、一見して物語に引き込める。
そういうアドバンテージがマンガにはありますから、
小説である以上、マンガの2倍は面白くないと意味がない。
ということをずっと考えていたんです。
そういう風に思っていた時に、綾辻行人(註2)さんの
「十角館の殺人」を偶然読んだんですよ。
すごいショックを受けまして。
「ああ、小説には小説でしかできない見せ方があるんだ」
と、後頭部をガーンと殴られたようなショックでしたね。
そこから新本格の世界に傾倒していきまして。
新本格の面白さと伝奇の面白さをなんとか一つに
したものを作りたい、と思い出したのが5〜6年前ですね。
ですので、影響を受けた作家さんとなると、菊地秀行さんと、
頭のスイッチを切り替えてくれたということで綾辻行人さん。
あとはまあ、大御所と呼ばれる島田荘司(註3)先生。
この3人ははずせませんね。あと、京極夏彦(註4)さん
なんかすごい好きで。あの人は影響があるというよりはもう、
神様なんで(笑)好きでしょうがないという
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新本格に手を出す前から小説はお書きに?
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奈須 |
はい
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武内さんにお聞きしたいのですが、新本格に手を出す以前と
以後では、奈須さんの作風などは変わりましたでしょうか
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武内 |
それ以前・・・ですか。
「魔法使いの夜」(註5)ってもうはまってたよね?
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奈須 |
ハマった後
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武内 |
そうですねえ・・・むしろ自分の中だと新本格は趣味の
部分であって、あまり作品に影響が出てた感じは
しなかったんですよ。ずっとテーブルトーク(註6)や
RPG(註7)をやってましたんで、なんだかんだ言って
ファンタジー系がすごい。ファンタジーと伝奇を
融合したようなことはずっとやってて。
まあ、飛躍的に文章のレベルが上がった時期は
あったんですけど。そのころはたしか竹本健治(註8)の・・・
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奈須 |
あ!すみません、一番大事な人を忘れてました。
竹本健治さん。新本格の方にはまりまして、いろいろ
探したんですよ。あのころは多分、人生で一番幸せな
時期だと思うんですけど。で、探している時に
竹本健治さんの作品に出会いまして。
最初に受けた衝撃というのはなかなか越えられない
ものなんですが、(「十角館の殺人」を読んだ時のショックを)
軽く越えてくれまして。
「ああ、ここに自分が見たかったもの、欲しかったモノが
あったんだ」と。で、あとはその、竹本健治先生の作品は
大好きなんですけど、立っている場所というか、
向かっている駅が違うということは気づいてましたんで。
自分は竹本健治さんが走らせている列車に羨望のまなざしを
向けつつ、たまに乗客として楽しませてもらったりしつつ、
自分なりの列車で違う駅を目指したいというのが
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武内 |
まあ、あれですね。やっぱり「空の境界」ではじめて
ミステリ風味というのを自分は読んだ気がしましたけど。
それ以前はまた全然毛色の違った作品を書いてましたんで。
あれはあれで一応ミステリだったの・・かな?
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奈須 |
何が?
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武内 |
「氷の花」
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奈須 |
いや、その。「魔法使いの夜」は当時の自分がやりたかった
ことのすべてなんですよ。館同居物(註9)で自分なりの
魔法使い論があって、青子というヒロインがいて。
ちょっとまあ最後にどんでん返しがあってミステリっぽいことを
ちょっとやってみようと。
で、やることをまあ全部やっちゃったんですよ。そうしたら
「あー、なんかとりあえず目的が無くなってしまったなあ」
となってしまって。それで、今までやったことがないものと
いうことで、純文学っぽいものをやってみようと。
それでまあ、「氷の花」っていう騎士物を書いて。
で、その後で
「とりあえず、本気でやりたい物がなくなったから、今まで
ずっとやろうと思っていた伝奇と新本格の融合をやろう」
と思って。それで武内君の誘いを受けたっていう。
そういう形になるんでしょうか?(註10)
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わかりました。次に行きたいと思います。ここまでで
「魔法使いの夜」「氷の花」といったタイトルが
出てきているわけですが、今まで奈須さんが
お書きになった作品はどのくらいあるのでしょうか?
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奈須 |
「魔法使いの夜」以前の作品はファン小説の域を
出ていないので、自分的には作品とは数えられません。
少ないんですが、「魔法使いの夜」「氷の花」「空の境界」の
3つですね。これ以外は人様にお見せできる
レベルではないので(笑)
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武内 |
うーん・・それ以外だとあと4つ?高校のころとか。
趣味というか、ラクガキみたいなものですね。
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奈須 |
あっ。〇〇とか。でもアレは、まあ、未完だし
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武内 |
あっそうか、載ってないんだ
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すみません、多分今の(会話は、マイクが)
拾えてないのでもう一度。未完の作品というのは?
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武内 |
まあ、その、あれは・・中学校くらいの時に書いた。
でもまあ実際そのころから面白かったですけどね。
一番はじめに書いたのは「スクリーマー」っていう、
これも元々奈須がやっていたテーブルトークを
小説化したものでしたけど。
あの時点でルーズリーフ100枚ありましたから
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(笑)そのころからもう
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武内 |
そうですね(笑)はじめはそれをマンガにする予定で。
「マンガにするから、あんまりページ数多くしないでね」
ってお願いしたのに、100ページのやつが来て。
(投げやりな口調で)「できないよ、こんなの」と
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奈須 |
投げられましたね(笑)
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世界にルールが欲しいんです
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これまでも資料集や用語辞典などの形で
月姫の背景設定、人物紹介など積極的に
行われていますが。今後もう少し踏み込んだ形で
背景世界、世界設定といったものを公開される予定は
ありますか
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武内 |
「月姫」っていうのは奈須の中の完成された世界観の
切り売りという部分があるんですよ。月姫の中で
切れる部分はもう全部公開してるような感じで。
ここから先はまた別の作品でメインに語られるべき
部分なので、これ以上語ることはできないですね。
他の作品を出した後にその作品に最もウェイトがある部分を
また公開していくことはあると思うんですけど
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奈須 |
世界にルールが欲しいんですよ。世界には縛りがないと
面白くないと思う。何事もやっぱり規則。限定された
出来事があるから、限定された中での出来事とあえて
限定を破った時の凄さっていうのがいきてくる。
自分は設定好きとよく言われるんですが、できることと
できないことをきっかり決めておかないと物語は
つまらないと思うんですよ。現実が面白いのは
人間が飛べないからであって、そういうその、
どうしても口出せない部分をきっかり決めておいて、
物語を書いた方が絶対に面白い。
そう思うので何年も前から少しずつルールを作っていって、
それが広がっていって箱庭になっているのが自分の中の
「現代伝奇物」としての世界設定。その一部が
「月姫」なんです。次回作があるとしたら、自分が好き勝手
書けて、かつ今一番面白いのは現代伝奇物なので。
月姫をやってくれた方が「あれ、これって?」と
ニヤリとするような世界の広げ方はしたいなあ、
というところですかね。
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武内 |
用語辞典自体も再販をかける際にもっと増やしてくれと
言ったんですけど「もう増やせん」って言われたんで。
「出し切った」と
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奈須 |
資料集を作る際に
「なにかネタない?用語辞典でもつくろうか?
あれだったら2・3日でできるから」
で、だーーーっと書いて、「こんなもーん」
まあ、そんなもんでしたから
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武内 |
「月姫2」も結局、用語辞典を作ることから。
結構前から言ってたんですよ。半月版のころに
設定集をつけまして。じゃあ完全版には資料集をつけよう、
っていうのはすぐ決めてたんです。それには絶対にその・・・
なんと言いますか、自分の中では奈須っていうと
用語辞典なんですよ。RPGで用語辞典とか作ってた
やつなんて、こいつくらいだと思うんですけど(註11)
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あれは一目見て、非常に手馴れていると思いました
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武内 |
今日も奈須の用語辞典、用意してあります(註12)
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奈須 |
ひぃー
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武内 |
奈須の話の楽しみ方っていうのは
用語辞典を見ることだと思うんですよ
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奈須 | ひどい言われようだな(笑)
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武内 |
だから絶対作って欲しかったというのがあって。
それなのに「わかったぁ〜」とか、すごいやる気なさそうに
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一同 |
(笑)
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奈須 |
あのころはなんというかその、ガソリンが。
だって白本は、アレなんですよ。
マスターアップが終わってプレスかけるじゃないですか。
やっと長いマラソンが終わったっていうところで、
締め切り一週間前に「本作るよー」って
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一同 |
(笑)
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奈須 |
用語辞典の最後の項で
「(月姫が完成して)ようやく楽になったっていうのに、
どうして自分たちはこんな本を作ってるんだろう。
それこそ、よくわからない」って書いたんですけど、
ホントにもうそういう気持ちで(笑)
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to be continued…
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