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第三回 産みの苦しみ
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「生活費は出すから、月姫に没頭してくれ」と言われて(奈須)
ぎりぎりでしたね。お金も無かったし、
理解してくれる人も全然いなかったんで(武内)
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月姫製作中の苦労話など
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奈須 |
これはもう、色々ありすぎて忘れてるというか
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武内 |
そうですねえ。自分はまだその頃(会社に)勤めてましたから、
両立が辛かったというのがありますね
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普段仕事をきちんとなされて、帰ってきてからという
ことだったわけですが、だいたい何時くらいまで作業を?
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武内 |
いつも三時くらいまでやってましたけど。
(当時)会社が〇〇にあったんですよ。今は引っ越して
しまったんですけど。自転車で5分で行けるんで
昼休み帰ってきて作業して。で、作業ある程度進めたら
戻って、ていう生活をしてましたね
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奈須 |
それ、初耳(汗)
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武内 |
いや、マジで
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奈須 |
やべ、頭上がんないッス(笑)
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奈須さんの方は?
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奈須 |
ゲーム会社に勤めてたんですが・・・こんなこと言っ
(武内さんを見て)ちゃダメですね。色々あって
辞めることになりまして(註1)
かといって生活費も無かったんで、
それを(武内君に)相談しましたら
「月々の生活費は自分が出すから、月姫に没頭してくれ」
という話が出まして。「望むところだ」と。
それで1月に会社を辞めまして5月まで、月姫だけを
ずっとやってました。4ヶ月で・・・そうですね、
5000枚近く書いてますね。もう、苦しすぎて
憶えていないですが。
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武内 |
お互いぎりぎりだったですね、あの頃は。
お金も無かったし、理解してくれる人も全然いなかった
んで(註2)そういう精神的な辛さっていうのがすごくあった
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奈須 |
明けても暮れても書いてましたが、
自分はそれしかやっていなかったので。
武内君のような苦労は無かったんじゃないかと。
やっぱりそのシナリオ枚数もよく言われるんですが
実はシナリオ枚数なんかよりもグラフィック枚数の方が
すごいことなんだぞ、ということをわかって欲しいですね。
(TYPE−MOONの場合)原画から塗りまで
全部(武内君)1人でやってた、ということが。
よく「塗りが甘い」とか言われますが、そのあたり、
もう少し考慮してやって欲しいなあ、と。
本来舞台裏は知ってはいけないものですから、
こんなことを言っても詮方無いことではあるんですけど
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武内 |
イベント絵に関しては1枚につき2時間
(で塗らなければならない)くらいの時間しか
とれなかったんです。特にイベントグラフィックに
関しては厳しい意見が多いんで、ちゃんとそれは
一般的にそういう風に思われているというのは
もちろんわかってますので。今後はこう、
他の方の力を借りつつ、っていうことになるんですけども
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それは・・・気になる発言ですね
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武内 |
ええ。「歌月十夜」の方は塗りを他の方にお願い
しているんですけれども。かなり、一気にクォリティが
跳ね上がってしまうので、むしろ恐いというか
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琥珀をピンで立てるなんて、無理だと思ってました
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「火の七日間」と呼ばれている時期について
お聞きしたいのですが
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奈須 |
最終テストバージョン(いわゆるα版)を完成させる前の、
ぎりぎりの七日間ですね。半月版を出した後、お互い
気が緩みまして、1ヶ月くらい何もしてなかったんですよ(註3)
9月も終わりごろ、そろそろ走り始めないとまずいだろうと
いう時に、半月版をやった方々から色々と書き込みが
ありまして。琥珀さんの人気がすごい。人気が出るとは
思ってたんですけど、まさかここまで出るとは思わなかった。
この時に武内君の方から・・・
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武内 |
なにかしら琥珀と結ばれるものが必要だ、っていう風に
思ったんですよ。自分は単純に翡翠から分岐して
ちょっとその、琥珀さんとらぶらぶ(註4)っていうのが
ありゃいいなって思って。
ミスタードーナツ(註5)で話したんですけど・・・
奈須が全然。その場は納得するんですよ。
「うん、わかった」とか言うんですけど、電話かかってきて
「やっぱ納得できない」「えぇ〜!」って(笑)
それでまあ、「やるならちゃんとやるから。スケジュールも
大変になるけど、お互いがんばろうぜ」という感じになって。
そこから仕切り直したという感じですね。
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奈須 |
それでまあ、まずプロットを立てて。結局自分にとって
琥珀というのは翡翠の影であって、彼女をピンで立てて
話を作るなんて無理だと思ったんですよ。というか
そんなもんしたくない、と。
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一同 |
(笑)
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奈須 |
自分の中にはどうしてもその、(クリアしなければならない)
水準がありまして、それを超える自信がなかったんですよ。
だから、そんなものは書きたくない。というのがあったんです。
とりあえずプロットを恐る恐る立てて、半信半疑で武内君に
見せて。武内君からOKが出れば自信を持って書こうと。
自分達の水準とそれを計るメーターは武内君なんで、
武内君がOKというならまあ、自信を持って書いていいんだと。
で、出してみたら電話があって「全然OKです。
是非やってくれ」という話になりまして。
「じゃあ、死ぬぞ」と確認して(笑)で、その段階で、
琥珀のために使える期間がシナリオに関しては
10日間くらい。1日でゲーム内時間の1日分を書く。
1日も休めないわけで、1日、2日とやっていって・・・
はじめはいいんですけど、クライマックスが近づいてくると
頭が麻痺してくるというか、精神状態もREDになってきて。
難しいシーン(の前)まで書いてこのシーン難しいわ、
とりあえず休もう。・・・夢の中でもやってるんですよ!(笑)
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一同 |
(笑)
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奈須 |
「うまくいかない うまくいかない!」
でハッと気づいて、ああ夢か、と
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それはまた(笑)
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奈須 |
「あー3時間寝ちゃったよ。やんなくちゃ。
うー、疲れてきた。寝よ」とか言いながら(夢の中で)
やってるんですよ。しかももう終わったシーンをずっと!
本当に悪夢のような七日間で。きつかったですね
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武内 |
そういえば、琥珀のシナリオは秋葉を敵にしようって
決まったら「あ、いけるわ」という風になったんだっけ?
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奈須 |
そうですね。前からその秋葉には敵役になって欲しいな、
というのがあったんですよ。秋葉ルートで。
それはまあ、ボツになっちゃいまして。
じゃあそれなら、琥珀ルートを作るならこれをやろう、と。
これが突破口になったというか、出口になった。
これだったらやる価値がある
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秋葉を敵に回すことで琥珀シナリオが実現したわけですね
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奈須 |
没になっていたアイデアの一つを引き揚げる形で
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武内 |
一応、俺がそれを説得したという感じになのかね?
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奈須 |
そうですね。今思うと自分、すっごく嫌がってましたから(笑)
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アルクがネコでブーブー文句言ってんだよ!
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結構直前で「こういうことを入れたい!」
というのがあったようですが
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武内 |
ありましたねえ
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知得留先生とか
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奈須 |
あれは非道かったです(笑)聞いてください。
完全版のマスターアップの2日前、OKSG君の家で
最終テストをしてる時(註6)にカタカタカタカター
とFAXが届きまして。見たら知得留先生の立ち絵があって
「こんなん描いちゃいましたー」「はぅぁ!?」って(笑)
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それは「もう描いちゃったから、やれ」という命令ですか?
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武内 |
ちぃーがーいーまーすー!(笑)
ヒントコーナーを絶対作ろうと言ってたんですよ。
長かったんで。でも、誰がヒントを言うかってのも
全然決まってなくて。はじめは先生(蒼崎青子)が
出てきて色々教えるのもいいかな、と思ってたんですけど。
奈須もその作業は最後にやると言っていたから、
じゃあどうしようかとずっと考えていて、
ふと「シエルを先生ぽくしよう」と。それで知得留を送って。
あとはアルクが猫でこんな感じでブーブー文句言ってんだよ、
とか言って渡したら結構奈須も気に入ってくれて。
「ああ、じゃあちょっとがんばって作るわ」みたいな感じで
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奈須 |
ヒントコーナーはほんとにもう、一行くらいで
「ここをこうやった方がいいよ」と言わせようと思ってたん
ですけど。あそこまで愉快なモノを送られると、
「ああ、楽しくしなくちゃダメだ」と(笑)
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2日で作ったとは思いませんでしたね
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奈須 |
ヒーヒー言ってました(笑)
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武内 |
おかげさまで、かなり好評ですね
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こういった体育会系ノリの強行軍がかなりあったように
見受けられるんですが。言い出すのはだいたい
武内さんなんでしょうか?
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奈須&武内 |
そう・・ですねえ(笑)
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奈須 |
自分は臆病というか無理だなと思うところでは
引くタイプなので。そういう時に
「いや、できる、やろう」と言ってくれるのが武内君ですね
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武内 |
んー。でも、奈須もやる気になっちゃうと結構大変なんで
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奈須 |
はい(笑)自分は火がついちゃうともう
死んでもいいって気になるというか、突っ走っちゃうタイプ
らしいんですよ。それで逆に迷惑をかけるときもあるかな、と。
「1でいい」と言われてるのを10ぐらい作ってきて
「さあ、モノにしてくれや」とか(笑)
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to be continued…
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