■第一回 月姫前夜
■第二回 初期衝動
■第三回 産みの苦しみ
■第四回 明暗
■第五回 名残りの月
■第六回 閑話2
■第七回 奈須
■第八回 茄子
■第九回 冥土。
■第十回 比翼の鳥
■番外編 6時間耐久チャット
■番外編 その2 サークル紹介


註1
ほんっとーに色々なことがあったんですが、 残念ながらカット。
月姫以上のハードワークを させられていたらしい、とだけ書いておきます

註3
正確には、何もしていなかったわけではなく、 ゲームして遊んでたらしいです(笑) 武内さんは「AIR」だったらしいですよ。 何やってるんだか

註5
いいことがあるらしいドーナツ屋さん。 ここでの会話から琥珀シナリオが生まれたことを考えると、 琥珀ファンにとってはこの上なく 「いいこと」があったことになる


第三回 産みの苦しみ


「生活費は出すから、月姫に没頭してくれ」と言われて(奈須)
ぎりぎりでしたね。お金も無かったし、
理解してくれる人も全然いなかったんで(武内)

編集 月姫製作中の苦労話など
奈須 これはもう、色々ありすぎて忘れてるというか
武内 そうですねえ。自分はまだその頃(会社に)勤めてましたから、
両立が辛かったというのがありますね
編集 普段仕事をきちんとなされて、帰ってきてからという
ことだったわけですが、だいたい何時くらいまで作業を?
武内 いつも三時くらいまでやってましたけど。
(当時)会社が〇〇にあったんですよ。今は引っ越して
しまったんですけど。自転車で5分で行けるんで
昼休み帰ってきて作業して。で、作業ある程度進めたら
戻って、ていう生活をしてましたね
奈須 それ、初耳(汗)
武内 いや、マジで
奈須 やべ、頭上がんないッス(笑)
編集 奈須さんの方は?
奈須 ゲーム会社に勤めてたんですが・・・こんなこと言っ
(武内さんを見て)ちゃダメですね。色々あって
辞めることになりまして(註1)
かといって生活費も無かったんで、
それを(武内君に)相談しましたら
「月々の生活費は自分が出すから、月姫に没頭してくれ」
という話が出まして。「望むところだ」と。
それで1月に会社を辞めまして5月まで、月姫だけを
ずっとやってました。4ヶ月で・・・そうですね、
5000枚近く書いてますね。もう、苦しすぎて
憶えていないですが。
武内 お互いぎりぎりだったですね、あの頃は。
お金も無かったし、理解してくれる人も全然いなかった
んで(註2)そういう精神的な辛さっていうのがすごくあった
奈須 明けても暮れても書いてましたが、
自分はそれしかやっていなかったので。
武内君のような苦労は無かったんじゃないかと。
やっぱりそのシナリオ枚数もよく言われるんですが
実はシナリオ枚数なんかよりもグラフィック枚数の方が
すごいことなんだぞ、ということをわかって欲しいですね。
(TYPE−MOONの場合)原画から塗りまで
全部(武内君)1人でやってた、ということが。
よく「塗りが甘い」とか言われますが、そのあたり、
もう少し考慮してやって欲しいなあ、と。
本来舞台裏は知ってはいけないものですから、
こんなことを言っても詮方無いことではあるんですけど
武内 イベント絵に関しては1枚につき2時間
(で塗らなければならない)くらいの時間しか
とれなかったんです。特にイベントグラフィックに
関しては厳しい意見が多いんで、ちゃんとそれは
一般的にそういう風に思われているというのは
もちろんわかってますので。今後はこう、
他の方の力を借りつつ、っていうことになるんですけども
編集 それは・・・気になる発言ですね
武内 ええ。「歌月十夜」の方は塗りを他の方にお願い
しているんですけれども。かなり、一気にクォリティが
跳ね上がってしまうので、むしろ恐いというか

琥珀をピンで立てるなんて、無理だと思ってました
編集 「火の七日間」と呼ばれている時期について
お聞きしたいのですが
奈須 最終テストバージョン(いわゆるα版)を完成させる前の、
ぎりぎりの七日間ですね。半月版を出した後、お互い
気が緩みまして、1ヶ月くらい何もしてなかったんですよ(註3)
9月も終わりごろ、そろそろ走り始めないとまずいだろうと
いう時に、半月版をやった方々から色々と書き込みが
ありまして。琥珀さんの人気がすごい。人気が出るとは
思ってたんですけど、まさかここまで出るとは思わなかった。
この時に武内君の方から・・・
武内 なにかしら琥珀と結ばれるものが必要だ、っていう風に
思ったんですよ。自分は単純に翡翠から分岐して
ちょっとその、琥珀さんとらぶらぶ(註4)っていうのが
ありゃいいなって思って。
ミスタードーナツ(註5)で話したんですけど・・・
奈須が全然。その場は納得するんですよ。
「うん、わかった」とか言うんですけど、電話かかってきて
「やっぱ納得できない」「えぇ〜!」って(笑)
それでまあ、「やるならちゃんとやるから。スケジュールも
大変になるけど、お互いがんばろうぜ」という感じになって。
そこから仕切り直したという感じですね。
奈須 それでまあ、まずプロットを立てて。結局自分にとって
琥珀というのは翡翠の影であって、彼女をピンで立てて
話を作るなんて無理だと思ったんですよ。というか
そんなもんしたくない、と。
一同 (笑)
奈須 自分の中にはどうしてもその、(クリアしなければならない)
水準がありまして、それを超える自信がなかったんですよ。
だから、そんなものは書きたくない。というのがあったんです。
とりあえずプロットを恐る恐る立てて、半信半疑で武内君に
見せて。武内君からOKが出れば自信を持って書こうと。
自分達の水準とそれを計るメーターは武内君なんで、
武内君がOKというならまあ、自信を持って書いていいんだと。
で、出してみたら電話があって「全然OKです。
是非やってくれ」という話になりまして。
「じゃあ、死ぬぞ」と確認して(笑)で、その段階で、
琥珀のために使える期間がシナリオに関しては
10日間くらい。1日でゲーム内時間の1日分を書く。
1日も休めないわけで、1日、2日とやっていって・・・
はじめはいいんですけど、クライマックスが近づいてくると
頭が麻痺してくるというか、精神状態もREDになってきて。
難しいシーン(の前)まで書いてこのシーン難しいわ、
とりあえず休もう。・・・夢の中でもやってるんですよ!(笑)
一同 (笑)
奈須 「うまくいかない うまくいかない!」
でハッと気づいて、ああ夢か、と
編集 それはまた(笑)
奈須 「あー3時間寝ちゃったよ。やんなくちゃ。
うー、疲れてきた。寝よ」とか言いながら(夢の中で)
やってるんですよ。しかももう終わったシーンをずっと!
本当に悪夢のような七日間で。きつかったですね
武内 そういえば、琥珀のシナリオは秋葉を敵にしようって
決まったら「あ、いけるわ」という風になったんだっけ?
奈須 そうですね。前からその秋葉には敵役になって欲しいな、
というのがあったんですよ。秋葉ルートで。
それはまあ、ボツになっちゃいまして。
じゃあそれなら、琥珀ルートを作るならこれをやろう、と。
これが突破口になったというか、出口になった。
これだったらやる価値がある
編集 秋葉を敵に回すことで琥珀シナリオが実現したわけですね
奈須 没になっていたアイデアの一つを引き揚げる形で
武内 一応、俺がそれを説得したという感じになのかね?
奈須 そうですね。今思うと自分、すっごく嫌がってましたから(笑)

アルクがネコでブーブー文句言ってんだよ!
編集 結構直前で「こういうことを入れたい!」
というのがあったようですが
武内 ありましたねえ
編集 知得留先生とか
奈須 あれは非道かったです(笑)聞いてください。
完全版のマスターアップの2日前、OKSG君の家で
最終テストをしてる時(註6)にカタカタカタカター
とFAXが届きまして。見たら知得留先生の立ち絵があって
「こんなん描いちゃいましたー」「はぅぁ!?」って(笑)
編集 それは「もう描いちゃったから、やれ」という命令ですか?
武内 ちぃーがーいーまーすー!(笑)
ヒントコーナーを絶対作ろうと言ってたんですよ。
長かったんで。でも、誰がヒントを言うかってのも
全然決まってなくて。はじめは先生(蒼崎青子)が
出てきて色々教えるのもいいかな、と思ってたんですけど。
奈須もその作業は最後にやると言っていたから、
じゃあどうしようかとずっと考えていて、
ふと「シエルを先生ぽくしよう」と。それで知得留を送って。
あとはアルクが猫でこんな感じでブーブー文句言ってんだよ、
とか言って渡したら結構奈須も気に入ってくれて。
「ああ、じゃあちょっとがんばって作るわ」みたいな感じで
奈須 ヒントコーナーはほんとにもう、一行くらいで
「ここをこうやった方がいいよ」と言わせようと思ってたん
ですけど。あそこまで愉快なモノを送られると、
「ああ、楽しくしなくちゃダメだ」と(笑)
編集 2日で作ったとは思いませんでしたね
奈須 ヒーヒー言ってました(笑)
武内 おかげさまで、かなり好評ですね
編集 こういった体育会系ノリの強行軍がかなりあったように
見受けられるんですが。言い出すのはだいたい
武内さんなんでしょうか?
奈須&武内 そう・・ですねえ(笑)
奈須 自分は臆病というか無理だなと思うところでは
引くタイプなので。そういう時に
「いや、できる、やろう」と言ってくれるのが武内君ですね
武内 んー。でも、奈須もやる気になっちゃうと結構大変なんで
奈須 はい(笑)自分は火がついちゃうともう
死んでもいいって気になるというか、突っ走っちゃうタイプ
らしいんですよ。それで逆に迷惑をかけるときもあるかな、と。
「1でいい」と言われてるのを10ぐらい作ってきて
「さあ、モノにしてくれや」とか(笑)

to be continued…

註2
参考までに、編者が「TYPE−MOON」の噂を聞いて はじめてサイトにアクセスした時、まだアクセス数は 2〜3000でした。年明け前後のことです。 苦労がしのばれます

註4
ここでの武内さんの口調をお伝えできないのが残念です。 余談ですが、お二人とも琥珀の時のみ 時折「さん」付けになります。志貴の影響?

註6
ちなみにこの時は「月蝕」の作成で大ピンチだったそうです