■第一回 月姫前夜
■第二回 初期衝動
■第三回 産みの苦しみ
■第四回 明暗
■第五回 名残りの月
■第六回 閑話2
■第七回 奈須
■第八回 茄子
■第九回 冥土。
■第十回 比翼の鳥
■番外編 6時間耐久チャット
■番外編 その2 サークル紹介


註1
と、思っていたんですが・・・ やってたようです(笑)



第二回 初期衝動


月姫は奈須の作品世界の入り口にしたかったんです
編集 月姫を作ったのは、奈須さんの文章をより多くの人に
見てもらうためだったわけですね
武内 そうですね。奈須の文章は癖があるのかな、
と思ってたんですよ。月姫に関しては、奈須の作品世界の
入り口になるような作品にしたい、というのがすごくあって。
わかりにくいところ、たとえば「死の線」とか、
「死の線は物理的にどうこう」と言われても
聞いててよくわからなかったんで(笑)
一同 (笑)
武内 「壊れやすい線」だけでいい。
そこをなぞったら壊れる、ってだけでいい。
という風にして「わかりやすい」っていうのをすごい強調して。
でもまあ、正直言ってここまで多くの方に受け入れて
もらえるとは思ってなかったですね
編集 月姫以前にゲームを作った事はあったのでしょうか?
武内 PCゲームははじめてですね。
もともと、自分はゲーム会社にいたんですよ。
でまあ、プログラマーとサウンドの友人がいたんで
(自分たちが)シナリオとグラフィックって感じで、
ちょうど揃ったというのもあるんですよ。
その当時はサウンドもプログラマーも職が無くて
時間もあるということだったんで、じゃあちょっと
一緒にやろうかと。かなり・・・
奈須 甘い見切り発車だった
武内 だったんですね。すぐに作れるだろう、というくらいの
気持ちで始めたんです。そんなにこう、ものすごい
意気込みとかあったわけじゃないですね。今思うと

エロに関しては、自信はまったく無かったですね(奈須)
自分の中で不安とかは無かったです(武内)

編集 周りを見たらたまたまゲームが作れる環境だったと。
ここでさらに疑問が出てくるのですがX指定のゲーム、
いわゆる「エロゲー」を表現手段として選んだのは
なぜでしょうか。お二人ともそういった方面のものは
お作りになったことは無かったと思うのですが(註1)
奈須 エロに関しては、自信はまったく無かったですね(笑)
自分はそれまで作中で性的表現をする必要性を
感じなかったというか、まったく考えてなかったんで。
で、今回ジャンルがそういった方面になりまして
Hシーンが必要になってくる。もう何が恐かったかっていうと
書けるのかどうか、ていう。
武内 そうですね。まあ、単純に自分がそういう
アダルト方面、成年向け方面にちょうど興味があった時期では
あったんですよ。それに奈須を巻き込んだっていう
感じはあるかな、っていうのがありますね。
基本的にあんまりそういうことやってきた奴じゃないんで。
でまあ、同人で出す以上はやっぱり青年向け、
男性向け創作の方が売れる、目を通してもらえるって
いうのがもちろんあったんですけど。
まあ、それでむりやりこういう感じにしよう。
奈須もやってくれ、という感じで。
奈須 先ほども武内君が言っていたんですが、
本当にこの業界、文章だけっていうのは弱いんですよ。
で、いかに文章を読んでもらうか考えたら
できるだけ切り札は多い方がいい。それだったら
ビジュアルノベル、ゲーム、かつエロだったら
誰か、まあ10人に1人は見てくれるんじゃないかなあ
という考えは、自分ではありましたね
武内 一番初めに体験版を出したんですけど、その時にその、
軽くHシーンを書いてくれ、と言って。
奈須にこういうシチュエーションで書いてくれ、
ていうのを渡したんです。で、帰ってきたモノを見て
「あ、全然できる、やっぱこいつは」って思ったんで。
自分の中で不安とかは無かったですけど。
これなら十分いける、という感じで

「恋愛ゲーにはするけど、主人公は絶対カッコよくするぞ!」
編集 恋愛物、エロゲーを作ろうという話を持ちかけたのは
武内さんであったと
武内 そうですね。でもまあ、恋愛ゲームを作ろうというつもりは
別になかったんですよ。単純に、自分達が作ったら
ああなるな、ていうくらいで
奈須 そもそもこのジャンルにしようと思ったのは理由がありまして。
自分は当時パソコンを持っていなくてPSの方で
「トゥハート」(註2)と「ONE」(註3)をやって、
武内君の家のパソコンで「Kanon」(註4)をやらせて
もらったんです。PC版のONEはわからないんですけど、
Kanonは正直言ってHシーンにまったく必要性が
無いんですよね
奈須 恋愛ゲーとビジュアルノベルは狙う所が違うんですけど。
とりあえず便宜的にギャルゲーと言った方が
わかりやすいですかね。実はすごい嫌だったんですよ。
その、たしかに面白かったんですけど、面白いだけで
燃えるものがなかった。どうせやるならやっぱり、
すごい、本当に伝奇物というか。
まあ、(私は)一番初めの根っこが伝奇物なんで。
そういうその、手に汗握るような物を作りたい。
で、それはその、恋愛ゲーとはちょっと違うだろうと。
先ほどのKanonの話になるんですが、
あれは主人公は主人公として存在していますが
あくまでヒロインが物語を持っていて、ヒロインが持つ物語に
主人公が付き合っているだけだな、と。
いや、それはそれで面白いんですが。まあ、それには
やっぱり多少の不満があった。主人公はやっぱり
プレイヤーの分身。自分がそのゲームの世界で
主人公として活劇したいならば、あくまで物語の
中心は自分であるべき。だから各ヒロインのストーリーに
付き合いながらも、それを左右する者、その世界の
中心になるのは自分でありたい。
ということで、一番初めの企画書で
「恋愛ゲーにはするけど、主人公は絶対カッコよくするぞ」
ていうのを強く念を押して書いたんですよ。
で、とりあえず既存のビジュアルノベル、と言ってもやったのは
「トゥハート」「ONE」「Kanon」くらいでしたから、
そのフォーマットに合わせつつ自分達がやったらこうなるぞ、
というのを作ってみたら「月姫」になった、という感じですね

to be continued…

註2〜4
このインタビューを見ている人に説明の必要は無いかと(笑) この業界を代表するヒット作たちです。 なお、註3で奈須さんが「ONE」と呼んでいるのは、 「輝く季節へ」のことです